大判例

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東京地方裁判所 昭和26年(モ)2312号 判決

申立人訴訟代理人は「被申立人と申立人間の東京地方裁判所昭和二十六年(ヨ)第二五五号不動産仮処分申請事件につき、同裁判所が昭和二十六年一月二十七日なした仮処分決定はこれを取消す。」旨の判決を求め、その理由として、

『被申立人は申立の趣旨記載の仮処分申請事件において、昭和二十六年一月二十七日、「申立人(債務者)は被申立人(債権者)の東京都中央区銀座西八丁目六番地六所在鉄筋コンクリート造陸屋根五階建店舗一棟の内三階三十四坪七合に対する占有に対し、電気、暖房スチーム、水道の停止その他一切の実力をもつてする妨害行為をしてはならない。」旨の仮処分決定を得ながら、その本案訴訟を提起しなかつたので東京地方裁判所は申立人の申立により、同年二月二十七日附決定を以つて、被申立人に対し右決定送達の日より十四日内に本案訴訟を提起すべき旨命じ、右の決定は同年三月一日被申立人に送達された。そして、同年三月十三日、オリヱンテツクス商会ことイー・ヱル・ウヱストなる名義で本案訴訟(東京地方裁判所昭和二十六年(ワ)第一三〇五号妨害排除請求事件)が提起されたが、右訴訟における原告は米国法人オリヱンテツクス・リミテドと訂正された。従つて被申立人からの本案訴訟は存在しないことになつた。よつて本件仮処分は民事訴訟法第七百五十六条、第七百四十六条により取消さるべきである。

なお、右の訴訟において再び原告を被申立人イー・ヱル・ウヱストと訂正する旨の申立があつたことは認めるが、これに対して、被告たる申立人は異議を述べたから、この訂正は許されないものである。』と述べた。<立証省略>

被申立人訴訟代理人は主文第一項と同趣旨の判決を求め、答弁として、「被申立人は昭和二十六年三月十三日本件仮処分の本案訴訟を提起し、右訴訟は現に本案管轄裁判所たる東京地方裁判所に繋属している、もつとも、申立人の主張するように、被申立人は右訴訟の第一回口頭弁論期日において、原告はオリヱンテツクス・リミテドである旨陳述したが、これは錯誤に基く陳述であるから、次回口頭弁論期日において、原告は訴状記載通りイー・ヱル・ウヱストである旨訂正した。これに対し申立人(被告)は異議を述べたが、右事件は原告イー・ヱル・ウヱストとして進行されているから、この訂正に争があるとしても、仮処分取消の理由とはならない。」と述べた。<立証省略>

三、理  由

申立人主張の通り被申立人の申請による本件仮処分決定のあつたこと及びその主張の通り所謂起訴命令が発せられ、被申立人に送達されたことは被申立人の明かに争わないところである。

そこで、本件仮処分の本案訴訟が、存するかどうかについて考察するに、昭和二十六年三月十三日東京地方裁判所に本件仮処分の債権者(被申立人-その表示は仮処分においても本案訴訟においても、オリヱンテツクス商会ことイー・ヱル・ウヱストと表示されている)から、債務者(申立人)に対し、妨害排除請求の訴訟が提起され、これが本件仮処分の本案訴訟に該当することは当事者間に争ないところであつて、更に右本案訴訟の第一回口頭弁論期日に、原告たる被申立人が、原告はオリヱンテツクス・リミテドであると陳述し、次回口頭弁論期日において、前回の陳述を訂正して、原告は訴状記載通りイー・ヱル・ウヱストであると陳述し、これに対して被告(申立人)から異議が述べられたこともこれ又当事者間に争のないところである。

そこで、右の事実に基いて考えて見るに、前示第二回口頭弁論期日においてなされた被申立人の陳述が原告オリヱンテツクス・リミテド(これが法人として実在するものであることは成立に争ない甲第五号証の記載によつて明かである)を被申立人に訂正するということであれば、これは被告から異議を述べているから、訴状の訂正乃至当事者の変更について如何なる見解を採るにしても許容されないものと考えられる。

右の点だけに限定して考えれば申立人の主張する通りだと思われるが、その前に原告をオリヱンテツクス・リミテドと訂正(更に被申立人はこの訂正を錯誤による陳述であるという主張もしているようである)したことの効力を認むべきかどうかが次に述べる通り問題として残るものといわなければならない。

即ち、右訴訟の第一回口頭弁論期日においてなされた原告イー・ヱル・ウヱストをオリヱンテツクス・リミテドと訂正する旨の陳述は、両者共に実在の人格であるから、特別事情のない限り単に当事者の表示の訂正というべきではなく当事者の変更に該当すると見るのが相当である。従つて実質的には旧訴の取下と新訴の提起があつたものと見て、これが要件を具備するかどうかを吟味してその効力を定むべきであると解されるし、又当日出頭した訴訟代理人がいずれの代理人として出頭し、如何なる資格、授権に基いてこれをなしたかの点も問題となる訳である。

もつとも、右の訴訟における原告の表示がオリヱンテツクス商会ことイー・ヱル・ウヱストとなつていたのであるから、その表示が不明確であつてこれを補正したものと見る余地もあり、かつ被告において異議もなかつたことであるから、これを有効と解することも可能であると考えられ、成立に争ない甲第一号証(口頭弁論調書)中原告の表示から見れば、裁判所においてこれを認めているのではないかとも推測されるのである。

然し、口頭弁論調書の記載から見れば、成立に争ない甲第二及び第三号証によると第二回口頭弁論期日以後の調書は原告オリヱンテツクス商会ことイー・ヱル・ウヱストと表示され、再度の当事者の変更を認めた如き記載となつており、要するに本案裁判所のこの点に関する判断は調書の記載からは断定できず、当事者としては如何なる判断を受けるか不明の状態にあるものといえる。

もつとも、この点の争は当事者が何人であるかの問題であるから、当事者に不明のまゝ訴訟が進行するということはあるべきでなく、若し裁判所においてオリヱンテツクス・リミテドを当事者に認めているならば、従前の個人としての委任状に代えて会社代表者の資格による委任状の提出を要求される等何等かの形でこの点に関する裁判所の見解が明かにされるのも遠くないと思われる。

然し乍ら、現在においては未だ裁判所の見解が明かとなつていないのであるから、かような状態の下において被申立人に対し更に別個の本件仮処分の本案訴訟として同一内容の訴訟を提起すること(本件のかような事情で仮処分債権者の提起した本案訴訟が消滅に帰しても再び訴を提起することによつて仮処分の取消を免かれ得るというべきである)を要求するのは酷であるし、前述の通り右訴訟の口頭弁論調書の原告の表示が被申立人となつているのであるから、被申立人としては裁判所の明確な見解の表明のない限り一応この記載を基準として行動するであろうことを考えると尚更である。又飜つて、本案訴訟の不提起のまま放置されることによる不利益から仮処分債務者を保護しようとする民事訴訟法第七百五十六条、第七百四十六条の趣旨から見ても、申立人はむしろ被申立人が当事者として前示訴訟を追行することに異議を述べているのであるから、右規定によつて保護すべき不利益を蒙つているものと考えられない。

以上の点より見て、本件は前示の民事訴訟法の規定による仮処分の取消をなすべき場合に該当しないものというべきであるから、本件申立はこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 安岡満彦)

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